「エーッ!
じゃあ、昔はずうっと鎌倉の花火しか知らなかったってことじゃないですか。鎌倉しか知らないのに、『鎌倉が日本一だ』とか何とか言ってたんですかア」
「当然」
と私が言うと、「そういう人じゃないか」と浩介が言った。
「そうじゃなかったら、横浜ベイスターズなんか応援するわけないじゃないか。この人は何でもかんでも自分がたまたま知っていることが一番なんだよ」
「愛するっていうのはそういうことだ」と私は言った。「愛っていうのは、比較検討して選び出すものじゃなくて、偶然が絶対化することなんだよ。誰だって、親から偶然生まれてきて、その親を一番と思うようになってるんだから、それが一番正しい愛のあり方なんだよ」
ISBN:4101449244 文庫 保坂 和志 新潮社 2006/03 ¥700
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